(4)36協定の開示請求方法――労基法による方法と情報公開法による方法


 36協定については、労基法106条で、「法令等の周知義務」が使用者に対して義務づけられています。この場合、使用者がその閲覧を拒否した場合、労基法120条では、30万円以下の罰金に処することができるとされています。しかし問題は、現場の労働者が実際には36協定をなかなか見ることができないという場合があるということです。
 この場合、何か別の方法で見る方法はないのかが問題となります。
 労基法36条では、この協定は行政官庁に届け出なければならないとされています。したがってこの行政官庁である労働基準監督署は、この協定を持っているということになります。またもしも持っていない場合には、使用者が届け出ていないということになりますので、当該36協定は有効に締結されていないということになります。
 この場合に、労働基準監督署は国の機関ですので、情報公開法による請求に服することになります。この場合、情報公開による請求が可能であるかどうかは、同法5条の不開示事由に該当するかどうかが問題となります。この場合、同条2号の「法人その他の団体に関する情報」、すなわち事業情報であるかどうかが問題となります。この条文は以下のとおりです。

「法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。
 イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの
 ロ 行政機関の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたものであって、法人等又は個人における通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの
 この条文のとおりであれば、36協定の内容またはそれ自体が存在することが、上記イロに該当するかどうかが問題です。しかしどんな使用者でもこれを「該当する」と自信を持って主張できる使用者はいないのではないでしょうか。
 厚生労働省の行政解釈としては、現在のところ不開示事由に該当するということになっています。しかしこれはあらためて検討することが求められているのではないかと考えられます。
 その場合に、実際に請求してみて、不開示事由に該当すると判断された時点で、司法的に解決する方法を模索する、つまり新しい判例をつくり、その中で解決するという方法も必要でしょう。

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